獲得した生物地理学的見識を検証する根拠として種のオカレンスデータを用いる

エコリージョンの境界は、異なる生物の群集間で意味のある区画を表しているか?

GBIF 経由で使用されたデータリソース : 種のオカレンス2億件
Global map of ecoregions
The latest expert-led refinement of a global map of ecoregions developed as part of the proposed Global Deal for Nature. Figure from Dinerstein et al (2017) (CC BY 4.0)

この記事は、 GBIFサイエンスレビュー2019にも掲載されています。サイエンスレビューは、研究や政策の分野においてGBIF上のデータが利用された重要で注目に値する事例に焦点を当てています。

アレクサンダー・フォン・フンボルトとアルフレッド・ラッセル・ウォレスが初めて動植物の分布パターンについて独自の厳密な観察に基づく洞察を提唱して以来、明確に定義された自然地理的地域が種の特徴的なグループ化を形作り定義するという考えは、生物科学の中心的な基本理念を形作ってきました。

現在の生態的および進化的プロセスを考慮すると、これらの「自然」の境界は、生物群集のパターンを説明できる直感的に正確な方法のように思えます。しかし、生物地理学的研究が発展して計算分野の研究が盛んに取り入れられるようになっても、フンボルトとウォレスを継承する科学者らは、エコリージョンの妥当性を信じて受け入れる傾向にあるか、せいぜい専門家による提唱された境界と分類を改良し調整する新しい取り組みをまとめているにすぎず、そのような概念に挑戦しようとはしません。

スタンフォード大学の博士課程の学生であるJeffrey Smithは、次世代の生物地理学者を代表する人物です。新たな統計ツールとライブラリ、圧倒的な計算能力、そして、GBIFネットワークの2億件のオカレンスレコードというビッグデータを用いて、彼と共著者は以下の疑問に答えることにより、エコリージョンの概念の妥当性を検討するために、種のレベルの証拠の使用を試みました。

エコリージョンの境界は、異なる生物の群集間で意味のある区画を表しているか?

Smithは論文の発端は「幸運な偶然、皮肉なコメント、スナック、ビール、そして友人のおかげだった」と控えめに述べていますが、このデータに基づくテストは決して不真面目な気晴らしなどではありませんでした。種の保護、保全計画の立案、生息域の復元、その他の自然資源についての応用分野は、すべて大規模な現地行動を組織しその優先順位を決める枠組みとしてのエコリージョンの妥当性に負うところが非常に大きいからです。

注目を集めている例を1つ挙げましょう。2017年のパリ協定(気候変動に関する国際条約)に付随して提案された Global Deal for Nature (GDN) について記述した論文には、「陸域の半分を保護するエコリージョンに基づくアプローチ」という明確なタイトルがつけられています。Smithと共著者は、この地図の初めての統計学的テスト実施に関わる利害関係において次のようにほのめかしましたが、空間的に明確なエコリージョンの世界地図の専門家主導によって洗練された最新版を使用しています。「近代の生物多様性科学の発展においては、カテゴリー別に定義されたエコリージョンの価値が認められているにもかかわらず、これらは時代遅れである可能性があり、研究や保全の取り組みに誤った情報を与える恐れすらあります。」

実験はエレガントで、線形回帰分析や種の累積曲線に基づく多くの研究とは異なり、わかりやすいストーリーに簡単に置き換えられています。ナチュラリストが計画外のハイキングでばったり見つけた種について採集地点と同定種をいきあたりばったりに記録するように、この研究で用いられたコンピューターモデルもランダムながら規則に基づいたトランセクトを生成し、GBIFネットワークからの植物、節足動物、鳥類、哺乳類、爬虫類、両生類、菌類のオカレンスデータを1ピクセルが10 km2 のGDNエコリージョン地図に入念にプロットしました。

この分析では、景観をえり好みせずにぶらぶら歩きながら、モデル(とナチュラリスト)がいくつ新しい種を観察するかについての、2つの競合する仮説を比較します。急進的移行仮説では、新しいエコリージョンに入るとき、新しい種を観察する比率が急激に増加することが予想されます。一方、漸進的移行仮説では、エコリージョン内またはエコリージョン間の移動において種を発見する比率の変化がごくわずかか皆無であることが予想されます。後者を支持する結果であった場合は、エコリージョンの境界は比較的の浸透性が高く、それらの妥当性と利用に疑問が生じることになります。

しかしながら、このモデルで新しい種が見つかった場所と頻度について結果を表にまとめたところ、エコリージョンの境界は、距離によるランダムな種の累積よりも、見出された種の累積の生物地理学的パターンによってよく説明できることが明らかとなりました。その関連性の強さは分類群によって異なるものの(予想外ではありませんが特に菌類の場合)、その結果は種が急激に入れ替わる地域としてエコリージョンの境界が存在することを示しました。この結論は急激移行仮説と一致するもので、エコリージョンは進化的および生態的プロセスを反映し明らかにする基盤的概念であることが広く確認されました。

Smithら(2018)が導いた結論は、GDNの著者らが指針、マイルストーン、ターゲットをもって行った詳細な追跡研究において歓迎された検証を提供し、世界のエコリージョンと系統学の関係の調査のように、さらなる研究に創造性に富む領域をもたらしました (参照 Murphy et al. 2019)。

Smithらは、GBIFネットワークのソースデータのダウンロードDOIの引用を追加した著者による修正 を出版するよう学術誌に促し、オープンサイエンスにおけるベストプラクティスを実行しました。

Smith JR, Letten AD, Ke P-J, Anderson CB, Hendershot JN, Dhami MK, Dlott GA, Grainger TN, Howard ME, Morrison BML, Routh D, San Juan PA, Mooney HA, Mordecai EA, Crowther TW and Daily GC (2018) A global test of ecoregions. Nature Ecology & Evolution. Springer Nature 2(12): 1889–1896. Available at: https://doi.org/10.1038/s41559-018-0709-x